Pファンク徹底解説1 パーラメント「マザーシップ・コネクション」①

音楽 | 02/05/2019
Pファンク徹底解説1 パーラメント「マザーシップ・コネクション」① Pファンク徹底解説2 パーラメント「マザーシップ・コネクション」② Pファンク徹底解説3 パーラメント「マザーシップ・コネクション」③ Pファンク徹底解説4 パーラメント「マザーシップ・コネクション」 Pファンク徹底解説5 パーラメント「ファンケンテレキーVSプラシーボ・シンドローム」①

P-FUNKとは何か?

おそらく多くの人が「Pファンク」という言葉に想起するのは、「奇抜な格好をした大勢の黒人たちが、ステージ上でわちゃわちゃやっている感じのやつ」といったイメージでしょう。
あるいは、一般的には、「『パーラメント』と『ファンカデリック』を中心とする音楽集団の総称、またはその音楽」みたいな説明がなされたりします。

なるほど、確かにその通り。全身スパンコールのやつもいるし、星型のサングラスをかけているやつもいる。あそこにはオムツを履いたやつもいる。確かに、大勢が奇抜な格好でわちゃわちゃやってます。しかし、そればかりに注目していると、その本質を見失ってしまいます。Pファンクはただのイロモノではありません。とんでもないイロモノです。

彼らについて、とりわけ日本で見落とされている点。それは「過剰なコンセプト性」です。この要素はPファンクを語る上で欠かすことのできないものであり、逆に言えば、もしあなたがこの点を看過しているようであれば、たとえその膨大な構成メンバーすべてを暗記していたとしても、「Pファンクを理解している」とは言えません。

Pファンクには、例えばこんな要素が含まれます。

SF、フリーメイソン、陰謀論、アフリカ中心主義、オカルティズム、ブードゥー教、ピラミッドの謎、宇宙、ビッグバン、旧約聖書、捏造考古学、JBイズム(ザ・ワン)、黒人霊歌、フランケンシュタイン、フランケンシュタインの花嫁、クローン、アトランティス大陸、コミック、懐中電灯、ブラックパンサー党、硫黄島の戦い、プラシーボ効果、エンテレキー、ピノキオ理論、それから・・・・・・・・・そうそう、ファンク。

Pファンクとは、ありとあらゆる事物をスチャラカに、宇宙のようにブラックなファンクでごった煮にして作り出された闇鍋・・・いや、「神話」なのです。
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全てのリリースがコンセプト・アルバム!

私は今だにわからなくなることがある。Pファンクとは、物語付きの音楽なのか、音楽付きの物語なのか、と。

丸屋九兵衛「ジョージ・クリントンとPファンク軍団の決めゼリフ」より
元bmr編集長にして日本屈指のファンカティアである丸屋九兵衛氏は、著書「ジョージ・クリントンとPファンク軍団の決めゼリフ」の冒頭をこう始めています。

先にも述べたとおり、Pファンクは神話です。Wikipedia英語版のこのページを見てください。まさしく「P-Funk mytology」、すなわち「Pファンク神話」という項目があります(しかもそこそこ長い)。本国アメリカでは、Pファンクは普通に「そういうもの」として認知されているのです。

Pファンク軍団は、主に70年代の終わり、その黄金期を通じて、「コンセプトアルバム」を量産しました。

「コンセプトアルバム」。楽曲の単なる寄せ集めではなく、一貫したテーマを表現することを目的として楽曲が紡がれたアルバムを、人は敬意を込めてこう呼びます。ビートルズ「サージェント・ペパーズ」、ザ・フー「トミー」、エマーソン、レイク&パーマー「タルカス」・・・。あらゆる表現方法のなかで、「アルバム」というフォーマットだけに許されたポップ・ミュージック芸術の極致(当然、本来量産するようなものではない)。
コンセプトアルバムたち コンセプトアルバムたち。名盤はプログレに多い。
そんな「コンセプトアルバム」に、さらにパンクする(=コンセプトが破綻する)ギリギリまで情報を詰め込み、なおかつ商業的に成功しながら(!)、およそ半年ごと(!)のリリースを続け、さらにはそれらの作品が全体を通じて一つの物語に繋がっている(!)という一連の作品を以て70年代後半を駆け抜けた音楽集団。それがPファンクなのです。
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構成メンバー、そして「ボス」

Pファンク軍団
Pファンクの一団。(youtubeより)
さて、まずは著名なPファンク・メンバーについて少しだけ触れておきます。このテキストはそっちメインのものじゃないので、より詳しい情報については、別途調べてみてください。

Pファンクは、腕利きミュージシャンの集団です。一例を挙げれば、現在においても「偉大なベーシスト」系のアンケートでは常連である、ブーツィー・コリンズは多くの人の知るところ。

あるいは、こちらも「偉大なギタリスト」系のアンケートの常連、エディ・ヘイゼルマゴット・ブレインのアレを弾いたギタリストです。

さらには、ファンク的ホーン・セクションの音色を定義づけたメイシオ・パーカー(サックス)やフレッド・ウェズリー(トロンボーン)。

「クラシック音楽の英才教育の無駄遣い」、こちらもファンクサウンドを決定づけた一人、バーニー・ウォーレル

さらに、そんな変態たちの誰よりも多くの楽器を弾きこなす天才マルチプレイヤー、ジュニー・モリソン

ファッキン・ソウルフルなシンガーでもある「司祭」グレン・ゴインズや、キャットフィッシュ・コリンズゲイリー・シャイダー・・・まだまだ大勢いらっしゃいますが、ここまでにしておきましょう。なにせ「正確には把握できない」「いまだに誰が弾いてたのかわからない曲がある」「末端まで入れると3ケタ超える」などと言われるPファンクです。とりあえずここでは、一癖も二癖もある凄腕プレイヤーの集団なのだと理解してください。

ところがそれを束ねていたボスはなんと、楽器も弾けない、譜面も読めない、おまけに特に歌もうまくない床屋のおじさんでした。

しかしながら、類稀なるユーモアと人間的魅力を備えたその男のもとには、世界を揺るがすほどの音楽的才能が結集したのです。そしてそれらの才能は、男の頭脳が生み出した「イカれたコンセプト」と混然一体となって、世にも奇妙な音楽として結実することとなります。

Pファンクのボス。男は、その名をジョージ・クリントンといいました。
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マザーシップ・コネクション 〜神話の始まり〜

マザーシップ・コネクション
Pファンクといえば、まずはこの一枚。今からPファンクを聞き始めようという人に「お勧めのアルバムはなんですか?」と聞かれたら、ファンカティアー(ファンク愛好者)はおそらく全員これを挙げます。なぜなら、このアルバムこそがPファンク神話の幕開けなのですから。


その一曲目、「P-Funk (Wants To Get Funked Up)」は、こんな語りから始まります。

Good evening.
Do not attempt to adjust your radio, there is nothing wrong.
We have taken control as to bring you this special show.
We will return it to you as soon as you are grooving.
Welcome to station W-E-F-U-N-K, better known as We-Funk.
Or deeper still, the Mothership Connection.
Home of the extraterrestrial brothers,
Dealers of funky music.
P.Funk, uncut funk, the bomb.

グッドイブニング。
ラジオを変えようとしないでください。そのままで。
この電波は我々によって完全にジャックされました。
あなたにこの放送を届けるために。
あなたがグルーヴし次第、元に戻ります。
ようこそ「ステーションW.E.F.U.N.K.」、またの名を「ウィー・ファンク」、
またの名をマザーシップ・コネクションへ。
私たちは地球外生命体のブラザー達のホームであり、
ファンキーな音楽、ピュアなファンク、切れていないファンク、「ザ・ボム」を扱っています。

このアルバムはいきなり「宇宙人に電波ジャックされたラジオ放送」という設定で始まります。

ジャジーで落ち着いた伴奏にのせて、紳士的な口調で語りかける「W-E-F-U-N-K」。この語りが終わると、甲高い声が早口でこうまくし立てます。

Coming you directly from the Mothership
Top of the chocolate milky way, 500, 000 kilowatts of P.Funk power
So kick back, dig, while we do it to you in your eardrums
And me? I’m known as Lollipop Man
Alias, The Long Haired Sucker, my motto is

チョコレート銀河の頂上のマザーシップから、500000キロワットのP-Funkパワーでお届けするぜ。
俺たちがあんたの鼓膜を叩き続けるうちは、ゆっくりくつろいでいてくれよ。
俺? 俺はロリポップ・マン、又の名を「長い髪のサッカー」だ。俺たちのモットーは・・・

と彼が言った次の瞬間、それまでの落ち着いた伴奏が、突如ファンキーにギアチェンジします。そして轟くファンクサウンドとともに、フックとして「モットー」が語られるのです。曰く、

Make my funk the P. Funk
I want my funk uncut
Make my funk the P. Funk
I wants to get funked up
I want the bomb
I want the P.Funk
I want my funk uncut
Make my funk the P. Funk
I wants to get funked up

俺たちのファンクをP-Funkにしろ
ファンクを切らないでくれ
俺たちのファンクをP-Funkにしろ
俺はファンク・アップしたいんだ
「ザ・ボム」が必要だ
P-Funkが必要だ
ファンクを切らないでくれ
俺たちのファンクをP-Funkにしろ
俺はファンク・アップしたいんだ

[quads id=4] 「W-E-F-U-N-K」。これは「コールサイン」に他なりません。テレビ、ラジオあらゆる放送はコールサインという識別IDを持っており、日本ではあまり一般に定着してはいませんが、例えばTBSラジオならば「JOKR」が割り当てられています。「彼ら」のコールサインは「WEFUNK」。

「マザーシップ(母艦)」とは彼らの乗るUFOの名。WEFUNKとはマザーシップ内のラジオ局。こうして、彼らの思想、電波ジャックの動機・・・もとい、犯行声明が告げられるのです。

Pファンクはそのアクの強さとロック寄りの音楽性(初期はサイケデリックロック強めだった)から、キャリアの初期にはあまりラジオのオンエアに恵まれませんでした。「R&Bチャート」でウケるような音じゃなかったんですね。ジョージはのちにこう語っています。

「ラジオ局は俺たちの音楽をオンエアしなかった。
だからラジオ局を作ったんだ」。

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Pファンクにおける「ファンク」の概念

さて、一曲目の「P-Funk(Wants to Get Funked Up)」の中に、無数に散りばめられた小ネタの中でももうひとつだけ、どうしても触れておかなくてはならない一節があります。

If you got faults, defects or shortcomings you know
Like arthritis, rheumatism or migraines
Whatever part of your body it is, I want you to lay it on your radio
Let the vibes flow through, funk not only moves, it can remove, dig?

関節炎やリウマチ、偏頭痛、あなたの体のどこか悪いところがあったら、
そこにラジオをかざして、ヴァイブスを当ててください。
ファンクは「動かす(=move)」だけでなく、「取り除く(=remove)」こともできるのです。

moveとremoveをかけた言葉遊びのセンスもさることながら、これです。ファンクは万病に効くのです。この一節にはジョージのファンク哲学が詰まっています。

このことから、彼が「ファンク」をただの音楽の一ジャンルではなく、生体エネルギーとして捉えていることがわかります。ファンクを聴くと、思わず頭や腰、爪先がそのリズムを追わずにはいられなくなる。きっと誰しも身に覚えがあることでしょう。聴いた瞬間に体の奥底から湧き上がってくる、ノリ。リズム。グルーヴ。ジョージはそれを、人を動かすもの = エネルギーとして捉えているのです。ファンクのエネルギー。このファンクに対する哲学は、神話全体を貫く根幹として、今後もちらほら顔を出すので、ぜひ覚えておいてください。
ハンスドリューシュ。ファーーーンケンテレーーキー。
▲「生気論」の父、ハンス・ドリューシュ。(Wikipediaより)
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スターチャイルド登場

アルバムは#1.「P-Funk(Wants to Get Funked Up)」から#2「Mothership Connection(Star Child)」になだれ込みます。


「怪電波放送」による2曲目は、こんな歌詞(というか語り)から始まります。

宇宙市民にして記録天使、スターチャイルドだ!
ピラミッドを取り返すためにやってきたぜ!
マザーシップでパーティーをしてる
俺がマザーシップ・コネクションだ!

Well, all right, starchild
Citizens of the universe, recording angels
We have returned to claim the pyramids
Partying on the mothership
I am the mothership connection

というわけで、ここでPファンクストーリーの準主役が登場します(主役の登場は次回作を待たねばなりません)。彼の名はスターチャイルド。アルバムジャケットに載っていた、UFOからゲットーに着陸せんとする銀色の男こそ彼、スターチャイルドだったのです。

スターチャイルド
スターチャイルドさん。
宇宙市民スターチャイルドはこの曲の中で、あらゆるレトリックを用い、ひたすらに「グルーヴすべし」というメッセージをまくし立てます。印象的な「If you hear any noise, It’s just me and the boys(騒音が聞こえてきたら、それは俺たちだ)」のフックとともに。

ここでいう「俺たち」とは、もちろんあなたをファンクにひきずりこまんとする、Pファンク軍団のこと。大勢の男たちによるご機嫌な合唱は、まさしく「Me and the boys(俺たち)」という表現にふさわしいといえます。

しかし、5分を過ぎたあたりから、この曲は雰囲気を変え、なんとも言えない奇妙な神聖さ、浮遊感、そして恍惚感を帯び始めるのです。そして「Me and the boys」は、こう歌い始めます。

Swing down, sweet chariot
Stop and let me ride
Swing down, sweet chariot
Stop and let me ride

静かに揺れる愛しの馬車
止まって、俺を乗せてくれ
静かに揺れる愛しの馬車
止まって、俺を乗せてくれ




スウィング・ダウン、スウィート・チャリオット、ストップ・アンド・レット・ミー・ライド。静かに揺れる愛しの馬車、止まって、俺を乗せてくれ。

このコーラスには元ネタがあります。19世紀に生まれたゴスペルソング、その名も「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」がそれです。

Swing low, sweet chariot
Coming for to carry me home
Swing low, sweet chariot
Coming for to carry me home

静かに揺れる愛しの馬車
私を故郷へ運ぶために
静かに揺れる愛しの馬車
私を迎えに来る


詞はこの後、「ヨルダン川を見渡したら、何が見えたと思う?私の後についてくる天使の楽隊だ」と続きます。これは旧約聖書の「列王記」にある、預言者エリヤの最期を示すもの。つまり、ちゃんと聖書に即した「聖歌」なわけです。

一見するとごく普通の「聖歌」に聞こえるこの歌詞には、しかし、別な意味が込められていました。そしてそれをジョージが知らないはずがありませんでした。彼が引用したこのゴスペルソング。

これは、ある秘密結社を暗示するものでした。 [quads id=2]

ダブルミーニングと秘密結社「地下鉄道」

秘密結社についてお話しする前に、ジョン・リーランド著「ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学」を引用しましょう。マザーシップ・コネクションを少し離れ、このアルバムが発売される百年と少し前、「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」が生まれた頃の、19世紀アメリカに遡ります。

アメリカにおける最初の偉大な文化的発明は、黒人英語だった。様々なバックグラウンドを持つアフリカ人にとって、英語はしばしば、初めての共有ボキャブラリーとなった。・・・主人の言語を取り入れた奴隷たちは、これを折り曲げ、自分たちの用法にかなうようコード化した。・・・奴隷たちにとって、この言語の利点はその不透明性、白人たちの盗み聞きから自分達を守るシェルターを与えてくれることにあった。歴史家ユージーン・D・ジェのヴィージーは、「バッド(Bad)」のような言葉を奴隷たちが反対の意味で用いていたことに触れ、言語的チック症状が言い逃れ行為であったことを述べている。

“実際に奴隷たちは、白人がいる場であっても、ある程度の安全性を持ってお互いにコミュニケートできるようになったのであり、彼らの話し方が持つ考え抜かれた両義性は、声の調子と身振りに依拠することでさらに補強され、密告者が主人に対し、印象や疑念以上のものを報告できないようにしたのだった。黒人説教者を「バッドなニガー」とよんで賞賛するのを、奴隷の密告者が効いたとしても、反対の意味で言っていたような気がするとしか主人には伝えられないだろう。奴隷所有者でさえ、大抵はもっと証拠を必要としたものだ。”

ジョン・リーランド「ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学」より
黒人英語の特徴は、ダブルミーニングや、反対の意味を言葉の中に含ませることです。日常的に鞭打たれ、監視と暴力に支配される中で、アフリカ中から集められた黒人は文化的交流を深め、「農場主に盗み聞かれても安全な言語」として「黒人英語」を作り出したのです。ご存知の通り、「バッド」と一口に言っても「悪い」という意味とは限りません。マイケル・ジャクソンは?そう、バッドですね。ジェームス・ブラウンは?そう、スーパーバッドです。

黒人英語のその性質は、一部のゴスペルソングにも受け継がれました。「聖歌」スウィング・ロウ・スウィート・チャリオットは、表向きは白人たちと同様の信仰を振る舞いながらも、時には秘密結社「地下鉄道」を意味するメッセージとして使用された、という説があります。

地下鉄道の逃亡経路
1830年から1865年にかけての地下鉄道の経路図。(Wikipediaより)
「地下鉄道(Underground Railway)」とは、南部アメリカで奴隷として扱われていた黒人たちの、北部アメリカおよびカナダへの逃亡を手助けした組織です。そして彼らが農場主にそれと気付かれぬよう、「安全に」黒人たちへメッセージを送る際に使用したのが、「そっと行け(Steal Away)」、「水の中を歩け(Wade in the Water)」、そして「馬車に乗れ(Sweet Chariot)」などのゴスペルソングでした。

「地下鉄道」は、この言葉の意味を察し、それに同意した奴隷の逃亡を手引きしました。組織の手引きで当時、少なくとも2万人の黒人がカナダへ逃亡したとされています。黒人が、一人の人間が、非道にも法によって、「動産」と規定されていた時代の話です。

Pファンクは、怪電波を発する宇宙船「マザーシップ」を、黒人を解放する「愛しの馬車」になぞらえました。

いや、それだけではありません。

彼らはそれを、実際にステージに着陸させたのです。 [quads id=3]

ゲットーに着陸!

mothership-connection
▲「マザーシップ・コネクション」裏ジャケ。当初予定されていたアルバムタイトルは、「Landing in the Ghetto(ゲットーに着陸)」だった。

《Mothership Connection》がリリースされ、「Give Up the Funk」が大ヒットすると、俺はニール[注:マネージャー]のもとへ行き、本物の宇宙船が欲しいと言った。宇宙船の値段も知らなければ、宇宙船を持っている人物も知らなかったが、宇宙船を持つことが意味をなすことのように思えたのだ。[…中略…]ニールは尻込みをするような人間ではない。尻込みするどころか、彼はそのアイデアに飛びつき、資金調達のアイデアをすぐさま俺に提案した。そんなニールだからこそ、俺が「宇宙船」と言った時、ただ頷いて百万ドルのローンを手配してくれた。

ジョージ・クリントン、ベン・グリーンマン 著 / 押野素子 訳
「ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ)」より
ジョージはマザーシップ・コネクションのヒットを受けて、100万ドルのローンを組んで宇宙船を買いました。これがかの有名な「マザーシップ」です。

当時のライブ映像があります。頭出ししといたんで、開始位置から2分ほど見てください。




ほとんど宗教的な陶酔感のなか、さながら司祭のようにグレン・ゴインズが歌っています。そして怪しげな「Swing down, sweet chariot, Stop and Let me ride」の合唱が。徐々にファンク熱を帯びる演奏。ドラミングにギアが入る。ファンクホーンが鳴る。演奏が最高潮に達したその瞬間。
マザーシップ着陸
着陸。

このべらぼうさ、途方もなさこそがPファンクなのです。

地下鉄道が秘密裏に黒人を解放していた時代からおよそ100年後。公民権運動によってようやく黒人はアメリカ国民として認められ、1970年代、ジェームス・ブラウン流に言えば「Proud to be black」の時代がついに到来しました。黒人であることを誇る時代が来たのです。それは、ようやく彼ら自身が、彼ら自身の文化を、堂々と謳歌し始めるに至ったことを意味します。

その一端は例えば、史上初めて「完全に黒人をターゲットとして」作られた音楽番組「ソウル・トレイン」の開始や、『シャフト』や『スーパーフライ』など、黒人の主人公が大活躍するB級映画、「ブラックスプロイテーション映画」の流行などにも現れています。

そんな時代のど真ん中に仁王立ちしていたのがPファンクの一団でした。そして彼らは、百余年の時空をまたいで、黒人の大観衆を扇動し、「スウィート・チャリオット」を空に叫んだのです。

次回、マザーシップ・コネクション編第2章は、来週公開予定!


<中編へ続く>


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