神は存在するか?宗教vs科学の法廷BEEF(前編)
「進化論」と「創造論」、どちらが正しいのはどちらか?
かつてアメリカで行われた、「神の不在」を問うた伝説の裁判。
さて、ラッパー同士のBEEFも面白いけど、こういう口喧嘩も面白いぞ!
今回取り上げるのは、伝説の凄腕弁護士・クラレンス・ダロウと、大物政治家・ウィリアム・J・ブライアンの裁判の攻防。
一言で言うならば、アメリカの超大物同士が「神の存在」を真っ向からやり合った1925年の法廷闘争。
それじゃ早速、発端から話していきます。
民主党の大統領候補に3度も選ばれた大物政治家ブライアン。敬虔なキリスト教徒であった彼は、敵を排除し自分だけが生き残ろうとする「進化論」を、「反キリスト的な悪魔の理論」と見なして嫌悪していました。それがアメリカで広まるのを恐れた彼は、学校で進化論を教える事を禁止する法律を成立させます。先生たちは進化論に代わって、「神が世界を作った」という“創造論”を教えることに。
しかしこの法律にACLUという人権団体が反発し、この法律の法的根拠を法廷で争うことになる。
ACLUはこの法律を裁判にもっていくために、まず、この “進化論教えちゃダメ法案” に抵触して逮捕されてもいいよ!という人を募集し、スコープスさんという先生がマジで進化論の授業をやって、逮捕。そして彼の罪を問うべく裁判が行われました。これが、アメリカではとても有名な「スコープス裁判」の経緯です。
クラレンス・ダロウ (1857 – 1938) – Wikipediaより
この裁判に、ACLU側が立てたのが当時の超売れっ子弁護士、クラレンス・ダロウ。スコープス裁判について話す前に、まずは彼が弁護士としてどう凄いのかを軽く紹介しておきましょう。彼は19世紀末の「プルマン争議」で一躍、その名を馳せました。それは、過酷な賃金カットへの抗議として、組合を率い列車ストを指導したデブスという男の弁護でした。要は、「仕事のボイコットを主導するなぞ、企業に対する妨害だ!犯罪だ!このヤロー!」っていう咎ですね。ダロウは彼の弁護でこう語りました。
情状酌量を勝ち取って刑期を何年短くするだとか、そんな鼻クソみたいな話で終わらせるつもりはダロウには毛頭なかったのです。それどころか彼はこの裁判の場で、「彼を罪に落とす側こそが有罪である」と、企業側と政府の罪を糾弾しました。いつの間にか検察官になり体制側の罪を追及する彼の弁舌に、陪審員は呆気に取られました。しかし、残念ながら裁判では、危機感を強めたプルマン側が裁判官を買収、デブス−ダロウが負けてしまうことになる。
結果はさておき、間違いなく一つ言えるのは、ダロウは、法律が必ずしも正義ではないことを理解していたということでしょう。
まあ、そんな人です。労働争議から凶悪事件まで、あらゆる大事件をこなす当代きっての「人権派」、それがダロウでした。そして知性と科学を愛するダロウは、進化論の熱心な勉強家で、なんだったら「進化論クラブ」っていう進化論の勉強会を開催したりもしていました。俺がやらないで誰がやるんだと、進化論の是非を問う「スコープス裁判」を引き受けたわけです。
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ウィリアム・ジェニングズ・ブライアン (1860 – 1925) – Wikipediaより
そしてダロウを受けて立つ検察側。名乗りを上げたのはなんと、例の“進化論教えちゃダメ法案”の生みの親である、ブライアン自身でした。ブライアンに関しても少し説明して起きましょう。
彼はアメリカ政治史上において、特筆に値する雄弁家でした。
19世紀後半、アメリカはデフレ真っ只中だったが、1873年、金本位制に移行した時は特に大変だったそう。その頃海外でも相次いで金本位制が導入され、金の絶対量が不足。金本位制ってことは貨幣価値が金と連動しているから、金の不足に連動して簡単に貨幣価値が暴騰するわけです。アメリカ中で金が不足したから、当然ドルが暴騰しました。
貨幣の価値が上がるということはつまり、例えば今まで一ドルでリンゴ一つを買えたところが、二つ買えるようになるわけですね。つまり売る側からすると、売値が下がる。売値が下がると、収入が下がる。反対に、貨幣価値が上昇してるから、もともとお金を持ってる人はウハウハ。まさしく、絵に描いたようなデフレでした。
志高い政治家ブライアンはこれに激怒しました。そして彼は大胆にも、「銀貨の自由鋳造を認める」という施策を提案。これは、銀貨を鋳造することを認めて通貨量を増やし、インフレを起こし、農民がデフレで背負った借金を返せるようにすることが目的でした。「金が足りないなら銀を増やしてデフレを脱却しよう」と提案したのです。一般労働者の圧倒的な支持とともに、彼は大統領候補となったのでした。そして、一般の労働者を犠牲にして金本位制を擁護する富裕層を徹底的に糾弾しました。これがアメリカ史上もっとも有名な演説の一つとされる、「金の十字架」演説です。
労組のリーダーを弁護したダロウと同じく、ブライアンもまた、徹底的に庶民の側に寄り添った男でした。まあ要するに、ダロウもブライアンも志のあるすっごく立派な人で、さらにどっちもめちゃめちゃ喋りが立つ人だったわけだ。ただひとつ、進化論についての意見だけは決定的に違いました。その二人が法廷で「宗教vs科学」のガチンコをやるっていう、ドラマみたいなホントの話です。んだから、アガらないわけにはいかない。続きは後半で!
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今回取り上げるのは、伝説の凄腕弁護士・クラレンス・ダロウと、大物政治家・ウィリアム・J・ブライアンの裁判の攻防。
一言で言うならば、アメリカの超大物同士が「神の存在」を真っ向からやり合った1925年の法廷闘争。
それじゃ早速、発端から話していきます。
1.奇妙な裁判
民主党の大統領候補に3度も選ばれた大物政治家ブライアン。敬虔なキリスト教徒であった彼は、敵を排除し自分だけが生き残ろうとする「進化論」を、「反キリスト的な悪魔の理論」と見なして嫌悪していました。それがアメリカで広まるのを恐れた彼は、学校で進化論を教える事を禁止する法律を成立させます。先生たちは進化論に代わって、「神が世界を作った」という“創造論”を教えることに。
しかしこの法律にACLUという人権団体が反発し、この法律の法的根拠を法廷で争うことになる。
ACLUはこの法律を裁判にもっていくために、まず、この “進化論教えちゃダメ法案” に抵触して逮捕されてもいいよ!という人を募集し、スコープスさんという先生がマジで進化論の授業をやって、逮捕。そして彼の罪を問うべく裁判が行われました。これが、アメリカではとても有名な「スコープス裁判」の経緯です。
2.「法のあり方」を国家に突きつけた弁護士
クラレンス・ダロウ (1857 – 1938) – Wikipediaより
この裁判に、ACLU側が立てたのが当時の超売れっ子弁護士、クラレンス・ダロウ。スコープス裁判について話す前に、まずは彼が弁護士としてどう凄いのかを軽く紹介しておきましょう。彼は19世紀末の「プルマン争議」で一躍、その名を馳せました。それは、過酷な賃金カットへの抗議として、組合を率い列車ストを指導したデブスという男の弁護でした。要は、「仕事のボイコットを主導するなぞ、企業に対する妨害だ!犯罪だ!このヤロー!」っていう咎ですね。ダロウは彼の弁護でこう語りました。
本裁判は、会社側、労組側、いずれが真の自由を守ろうとしたかを決める歴史的裁判であります。私はその意味での真犯人を罰するため、本法廷に立っている。古来『共同謀議』告発は、権力者の常套手段でした。しかし『共同謀議』は、会社側が政府と結託して労働者に仕掛けたものであります。みごとな建国の理念を持つ合衆国政府こそ、真犯人の処罰をここで行うべきですが、政府がその任務を逃れるのなら、私が代わってそれを行うしかない。
ー 越智道雄「アメリカ 異端のヒーローたち」より
情状酌量を勝ち取って刑期を何年短くするだとか、そんな鼻クソみたいな話で終わらせるつもりはダロウには毛頭なかったのです。それどころか彼はこの裁判の場で、「彼を罪に落とす側こそが有罪である」と、企業側と政府の罪を糾弾しました。いつの間にか検察官になり体制側の罪を追及する彼の弁舌に、陪審員は呆気に取られました。しかし、残念ながら裁判では、危機感を強めたプルマン側が裁判官を買収、デブス−ダロウが負けてしまうことになる。
結果はさておき、間違いなく一つ言えるのは、ダロウは、法律が必ずしも正義ではないことを理解していたということでしょう。
まあ、そんな人です。労働争議から凶悪事件まで、あらゆる大事件をこなす当代きっての「人権派」、それがダロウでした。そして知性と科学を愛するダロウは、進化論の熱心な勉強家で、なんだったら「進化論クラブ」っていう進化論の勉強会を開催したりもしていました。俺がやらないで誰がやるんだと、進化論の是非を問う「スコープス裁判」を引き受けたわけです。
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3.弱者救済に身を捧げた政治家
ウィリアム・ジェニングズ・ブライアン (1860 – 1925) – Wikipediaより
そしてダロウを受けて立つ検察側。名乗りを上げたのはなんと、例の“進化論教えちゃダメ法案”の生みの親である、ブライアン自身でした。ブライアンに関しても少し説明して起きましょう。
彼はアメリカ政治史上において、特筆に値する雄弁家でした。
19世紀後半、アメリカはデフレ真っ只中だったが、1873年、金本位制に移行した時は特に大変だったそう。その頃海外でも相次いで金本位制が導入され、金の絶対量が不足。金本位制ってことは貨幣価値が金と連動しているから、金の不足に連動して簡単に貨幣価値が暴騰するわけです。アメリカ中で金が不足したから、当然ドルが暴騰しました。
貨幣の価値が上がるということはつまり、例えば今まで一ドルでリンゴ一つを買えたところが、二つ買えるようになるわけですね。つまり売る側からすると、売値が下がる。売値が下がると、収入が下がる。反対に、貨幣価値が上昇してるから、もともとお金を持ってる人はウハウハ。まさしく、絵に描いたようなデフレでした。
志高い政治家ブライアンはこれに激怒しました。そして彼は大胆にも、「銀貨の自由鋳造を認める」という施策を提案。これは、銀貨を鋳造することを認めて通貨量を増やし、インフレを起こし、農民がデフレで背負った借金を返せるようにすることが目的でした。「金が足りないなら銀を増やしてデフレを脱却しよう」と提案したのです。一般労働者の圧倒的な支持とともに、彼は大統領候補となったのでした。そして、一般の労働者を犠牲にして金本位制を擁護する富裕層を徹底的に糾弾しました。これがアメリカ史上もっとも有名な演説の一つとされる、「金の十字架」演説です。
もしも彼らが金本位制を良しとし、図々しくも田畑へやってこようものなら、私たちは最後まで戦うだろう。私たちの後ろには、アメリカと世界の生産する大衆がついている。商業にたずさわる者がいる。工場労働者たちがいる。働く者すべてがいる。あくまで金本位制を欲する者に対しては、彼らとともにこう宣言しよう。君たちは働く者の額にこのイバラの冠をかぶせることはできない。人類を金の十字架にかけることは決して許されない。
拙訳(原文)
労組のリーダーを弁護したダロウと同じく、ブライアンもまた、徹底的に庶民の側に寄り添った男でした。まあ要するに、ダロウもブライアンも志のあるすっごく立派な人で、さらにどっちもめちゃめちゃ喋りが立つ人だったわけだ。ただひとつ、進化論についての意見だけは決定的に違いました。その二人が法廷で「宗教vs科学」のガチンコをやるっていう、ドラマみたいなホントの話です。んだから、アガらないわけにはいかない。続きは後半で!
[quads id=2]