デザインのお仕事の話:STAMPEDE’S CAFE & DINING BAR
仕事の話
自分は、文章を書くのも、デザインを作るのも、システム構築的なことの諸々も、作るという行為おおよそすべてを同じ地平で捉えているところがあり、あまりその境目を意識したことがありません。わざわざ自分で言うのも恥ずかしいですが、その境界の曖昧さや越境性から生まれる何かがあるのではないか、というようなことを思っています。だから「○○が専門だ」とかあまり言わないようにしているんですが(←仕事の上ではあまり良くない)、敢えていうと、できること全部受けてます。というわけで、過去に手がけたお仕事を紹介します。
札幌駅前にある飲食店、スタンピーズ・カフェ&ダイニングバーのロゴデザイン、看板、アイテム、内装などを担当しました。
この飲食店が少し変わっていて、厳密には「Aiba札幌駅前」という馬券販売場の1フロアという形になっています。競馬をやらない人にはあまりなじみがないかもしれませんが、実際にレースを行う競馬場とは別に「馬券販売場」という施設が全国にありまして、そこにはたいてい複数のモニターが設置されており、画面を通じて全国のレースをリアルタイムに観戦することができるようになってます。また、場内に設られた券売機を通じてそのレースにBETすることもでき、要は日本中のレースにリアタイで参加できるという場所です。
一般的な馬券販売場(写真AC)
「Aiba札幌駅前」さんはそんな施設のひとつなんですが、ここが特殊なのが、なおかつそのうちの1フロアがまるごと飲食店、カフェバーになっているという点。つまり「お酒を飲みながら競馬ができる」という、たぶん全国唯一の施設です。コロナ禍ではなかなか難しいところがありますが、重賞レースの際には解説者を招いてイベントを開催したりもしていて、その時は実際の競馬場さながらにワーワー盛り上がり、非常に楽しい空間になります。
このお店のアートディレクションをするにあたり重要だった点が、この飲食店が「Aiba札幌駅前」内の他のフロアとは異なり、「半独立した店舗として運営される」という点でした。つまり、「いわゆる競馬ファン以外にも、気軽に飲食店、および貸切型のイベントスペースとして利用してもらう」ということが、オープン以前からの経営的な構想でした。
競馬ファン以外にも間口を広げるとなると、当然「ザ・競馬」といったテイストに振り切ることはできませんし、かといって、施設全体、馬券販売場としてのとしての兼ね合いを無視することもできません。
加えて、この地下1階の飲食フロアのみ「アメリカンダイナー系の内装」というのが当初から予定されていました(それぞれのフロアが異なるコンセプトを持っています)。なので、差し当たってロゴマークの制作を担当することになった僕としてはまず、「競馬のニュアンスをギリギリの加減で残しながら、それでいて親しみやすく、かつアメリカンダイナーのイメージに着地させることができるか」というところがテーマでした。
最初はぼんやりと、オールドアメリカンな看板のスタイルで、タイポグラフィを組んで仕上げようかなぁと思っていましたが、どうにもしっくり来ず。というのも、そこに「馬」の要素を組み込むとなると、直接的に馬のイラストなりシルエットなりを挿入するほかなく、それだと競馬のニュアンスが入りすぎてしまうなぁ……という、ここが懸念でした。そこから、「では劇画タッチのカウボーイのイラストならどうだろうか? いや、それも強いな。じゃあカートゥーン風だったら……」という流れで、「昔のカートゥーンっぽい絵柄でカウボーイのキャラ」というアイディアを思いついてはいましたが、どうにもしっくりこなくて寝かせてありました。
ちなみにこの時点では店名も仮決まりで、それに関しても社長(同い年)から「なんか案あったらちょうだい」くらいの感じで軽く打診されていたんですが、結果的にはそれが良かったです。ロゴマークに店名、全く手探りの中、一週間くらい何かヒントになるものはないかと日々を過ごしていたところ、たまたま家にドゥービー・ブラザーズの「スタンピード」というレコードがあり、これだ! となりました。
The Doobie Brothers “Stampede”(1975)
「stampede」は(主に動物が)「走る(荒ぶる)」みたいな意味合いのある言葉だそうです。これなら直接的な競馬っぽさを避けながら、それでいてそのニュアンスを言外に持たせることができると踏みました。そしてこの言葉には、その原義から転じて「(人が)ごった返す」というような意味もあり、これならばおまけに、経営の軸である「大勢が集まるイベントスペース」的な意味合いも持たせられるのではないか、というようなことを思いました。
同時に、寝かせてた「昔のカートゥーンっぽい絵柄でカウボーイのキャラ」が「stampedeした馬(などの動物)にめちゃくちゃ踏まれた後」というのを思いつきまして、これなら店名とあわせて、懸案のニュアンスが解決できると踏みました。競馬から入ってくる人にも、そうでない人にも違和感のない匙加減。
このキャラクターは直前まで、ただ笑顔みたいなのを考えていたんですが、それがどうにも決定打に欠けるものだったので(だから寝かせてたんですが)、ナゾに怪我してるのは単純にロゴマークのフックとしてもいいなと思いました。社長(同い年)に「鼻血出させていい?」と正直に聞きました。「ウケんね」と言われました。OKでした。
鼻血
よし、これならあとはパターンを作り込んでいくだけだなと、自分の中では目指すべき方向が見えて一安心だったんですが、せっかくだから店内にもなんか入れたいねという話になり、そこで提案されたのが、壁一面の巨大な「壁画」でした。とりあえず「無理無理」と思いましたが、「このロゴに連動した “コミック” が本当に存在したら面白いな……」と思いついた時に、自分の「作ってみたい」という気持ちの方が勝ってしまいました。
自由にやっていいとは言われましたが、とはいえ、これはあくまで全体のデザインの要素の一部で、この場合はストーリー自体の斬新さや新奇性は本質ではありませんから、「いかにベタを踏襲するか」みたいなことが一応、なんとなく自分の中でのルールでした。ここでマンガとしてヒネっても意味がないというか、そこにもう一個ツイストが加わるのは蛇足かなーと思い。そして「賢くて一枚上手な小動物に翻弄されて最後はもみくちゃになる」みたいな、いかにもカートゥーンらしいものに。一応、アメリカンコミックふうに、左上始まりです。
全部Adobe Illustratorで描き上げました。実はコマの絵も表情変えただけで使いまわしてるので、そっちの方が早いなと。キャラごとに全部レイヤーを分けてたので、後から配置したりって作業が楽でしたね。このデカい牛だけ、いわゆる「アメコミ」の陰影と筋肉で、みたいなことでやってみましたが、これをやろうとする人、ブレンドツールが便利ですよ。どうでもいいけど。
わかる人にはすぐわかる、自分の好きなもののサンプリングとパロディのごった煮といった感じですが、作っている途中で、このマンガの「オチ」にロゴマークを連動させることを思いつきました。「こんなことがあってこうなりました」的な。
前述の通り、ロゴマークとしてのこいつの怪我の役割はあくまで、店名との兼ね合いと視覚的キャッチーさを勘案した「ロゴとしての機能性」だったので、その時点で目的は達成してたんですが、壁画の方と連動させたのは完全に僕の遊びでした。ただ、オープンしてから友達に、「ロゴ見て『なんで怪我してんだろう』と思ったけど、店の壁を見てつながった」と言ってもらえたので、自分の中では成功です。一人いればOKなやつ。
そして、そこまでできたらあとは芋づる式に「それならポスターも50年代辺りのコミックのリーフの表紙のテイストで」「エントランスマットには壁画の動物たちの足跡をプリントして店内に誘導しよう」とか、そのコミックの内容を含めた、それらと連動したネタが色々出てきまして、めでたく完成に至りました。いちど設定ができてしまうと色々遊べて、個人的にはコースターが気に入っています。このコースターは「コイツ」がグラスを置かれてペチャンコになります。「早く飲み干してくれ、息ができない!」。
えらいもんで、お客さんもきちんとコイツの上に置いてくれるおかげでテーブルが濡れにくかったという、想定外のメリットがありました。嗜虐心かな。
という感じでした。最初にチラッと書いたこととつながりますが、自分の場合は、明確に役割を定義づけられない方が、結果としてはおもしろかったりします。例えば、店名が当初の時点で決め切られていたら、店名についても軽く打診されていなかったら、たぶん今紹介したアイディアは全部出てなかったですし(もちろんそれはそれで何か考えますけども)。これは悩ましいところで、立ち位置を規定してしまった方が依頼はいただきやすかったりするんでしょうが、僕が「これが専門です」という断言をなんとなく避けてしまうのも、そういうのが影響している気がします。できれば持っている知識や技術は分野を超えて提供したいというか。なので、僕はどっちかというと、「こんなのを描きました(書きました)」というよりも、「こういうふうに考える人です」というのを理解してもらったほうがいい気がしています。
自分としても、色々やらせていただけたことに大変感謝しているお仕事です。イベントの時とかに行くと楽しいお店なので、ぜひ行ってみてください。
というわけで、何か手伝えそうなことがあったらご相談ください。
札幌駅前にある飲食店、スタンピーズ・カフェ&ダイニングバーのロゴデザイン、看板、アイテム、内装などを担当しました。
この飲食店が少し変わっていて、厳密には「Aiba札幌駅前」という馬券販売場の1フロアという形になっています。競馬をやらない人にはあまりなじみがないかもしれませんが、実際にレースを行う競馬場とは別に「馬券販売場」という施設が全国にありまして、そこにはたいてい複数のモニターが設置されており、画面を通じて全国のレースをリアルタイムに観戦することができるようになってます。また、場内に設られた券売機を通じてそのレースにBETすることもでき、要は日本中のレースにリアタイで参加できるという場所です。
一般的な馬券販売場(写真AC)
「Aiba札幌駅前」さんはそんな施設のひとつなんですが、ここが特殊なのが、なおかつそのうちの1フロアがまるごと飲食店、カフェバーになっているという点。つまり「お酒を飲みながら競馬ができる」という、たぶん全国唯一の施設です。コロナ禍ではなかなか難しいところがありますが、重賞レースの際には解説者を招いてイベントを開催したりもしていて、その時は実際の競馬場さながらにワーワー盛り上がり、非常に楽しい空間になります。
このお店のアートディレクションをするにあたり重要だった点が、この飲食店が「Aiba札幌駅前」内の他のフロアとは異なり、「半独立した店舗として運営される」という点でした。つまり、「いわゆる競馬ファン以外にも、気軽に飲食店、および貸切型のイベントスペースとして利用してもらう」ということが、オープン以前からの経営的な構想でした。
競馬ファン以外にも間口を広げるとなると、当然「ザ・競馬」といったテイストに振り切ることはできませんし、かといって、施設全体、馬券販売場としてのとしての兼ね合いを無視することもできません。
加えて、この地下1階の飲食フロアのみ「アメリカンダイナー系の内装」というのが当初から予定されていました(それぞれのフロアが異なるコンセプトを持っています)。なので、差し当たってロゴマークの制作を担当することになった僕としてはまず、「競馬のニュアンスをギリギリの加減で残しながら、それでいて親しみやすく、かつアメリカンダイナーのイメージに着地させることができるか」というところがテーマでした。
最初はぼんやりと、オールドアメリカンな看板のスタイルで、タイポグラフィを組んで仕上げようかなぁと思っていましたが、どうにもしっくり来ず。というのも、そこに「馬」の要素を組み込むとなると、直接的に馬のイラストなりシルエットなりを挿入するほかなく、それだと競馬のニュアンスが入りすぎてしまうなぁ……という、ここが懸念でした。そこから、「では劇画タッチのカウボーイのイラストならどうだろうか? いや、それも強いな。じゃあカートゥーン風だったら……」という流れで、「昔のカートゥーンっぽい絵柄でカウボーイのキャラ」というアイディアを思いついてはいましたが、どうにもしっくりこなくて寝かせてありました。
ちなみにこの時点では店名も仮決まりで、それに関しても社長(同い年)から「なんか案あったらちょうだい」くらいの感じで軽く打診されていたんですが、結果的にはそれが良かったです。ロゴマークに店名、全く手探りの中、一週間くらい何かヒントになるものはないかと日々を過ごしていたところ、たまたま家にドゥービー・ブラザーズの「スタンピード」というレコードがあり、これだ! となりました。
The Doobie Brothers “Stampede”(1975)
同時に、寝かせてた「昔のカートゥーンっぽい絵柄でカウボーイのキャラ」が「stampedeした馬(などの動物)にめちゃくちゃ踏まれた後」というのを思いつきまして、これなら店名とあわせて、懸案のニュアンスが解決できると踏みました。競馬から入ってくる人にも、そうでない人にも違和感のない匙加減。
このキャラクターは直前まで、ただ笑顔みたいなのを考えていたんですが、それがどうにも決定打に欠けるものだったので(だから寝かせてたんですが)、ナゾに怪我してるのは単純にロゴマークのフックとしてもいいなと思いました。社長(同い年)に「鼻血出させていい?」と正直に聞きました。「ウケんね」と言われました。OKでした。
鼻血
自由にやっていいとは言われましたが、とはいえ、これはあくまで全体のデザインの要素の一部で、この場合はストーリー自体の斬新さや新奇性は本質ではありませんから、「いかにベタを踏襲するか」みたいなことが一応、なんとなく自分の中でのルールでした。ここでマンガとしてヒネっても意味がないというか、そこにもう一個ツイストが加わるのは蛇足かなーと思い。そして「賢くて一枚上手な小動物に翻弄されて最後はもみくちゃになる」みたいな、いかにもカートゥーンらしいものに。一応、アメリカンコミックふうに、左上始まりです。
全部Adobe Illustratorで描き上げました。実はコマの絵も表情変えただけで使いまわしてるので、そっちの方が早いなと。キャラごとに全部レイヤーを分けてたので、後から配置したりって作業が楽でしたね。このデカい牛だけ、いわゆる「アメコミ」の陰影と筋肉で、みたいなことでやってみましたが、これをやろうとする人、ブレンドツールが便利ですよ。どうでもいいけど。
わかる人にはすぐわかる、自分の好きなもののサンプリングとパロディのごった煮といった感じですが、作っている途中で、このマンガの「オチ」にロゴマークを連動させることを思いつきました。「こんなことがあってこうなりました」的な。
前述の通り、ロゴマークとしてのこいつの怪我の役割はあくまで、店名との兼ね合いと視覚的キャッチーさを勘案した「ロゴとしての機能性」だったので、その時点で目的は達成してたんですが、壁画の方と連動させたのは完全に僕の遊びでした。ただ、オープンしてから友達に、「ロゴ見て『なんで怪我してんだろう』と思ったけど、店の壁を見てつながった」と言ってもらえたので、自分の中では成功です。一人いればOKなやつ。
そして、そこまでできたらあとは芋づる式に「それならポスターも50年代辺りのコミックのリーフの表紙のテイストで」「エントランスマットには壁画の動物たちの足跡をプリントして店内に誘導しよう」とか、そのコミックの内容を含めた、それらと連動したネタが色々出てきまして、めでたく完成に至りました。いちど設定ができてしまうと色々遊べて、個人的にはコースターが気に入っています。このコースターは「コイツ」がグラスを置かれてペチャンコになります。「早く飲み干してくれ、息ができない!」。
という感じでした。最初にチラッと書いたこととつながりますが、自分の場合は、明確に役割を定義づけられない方が、結果としてはおもしろかったりします。例えば、店名が当初の時点で決め切られていたら、店名についても軽く打診されていなかったら、たぶん今紹介したアイディアは全部出てなかったですし(もちろんそれはそれで何か考えますけども)。これは悩ましいところで、立ち位置を規定してしまった方が依頼はいただきやすかったりするんでしょうが、僕が「これが専門です」という断言をなんとなく避けてしまうのも、そういうのが影響している気がします。できれば持っている知識や技術は分野を超えて提供したいというか。なので、僕はどっちかというと、「こんなのを描きました(書きました)」というよりも、「こういうふうに考える人です」というのを理解してもらったほうがいい気がしています。
自分としても、色々やらせていただけたことに大変感謝しているお仕事です。イベントの時とかに行くと楽しいお店なので、ぜひ行ってみてください。
というわけで、何か手伝えそうなことがあったらご相談ください。